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噺家というのは皆、お茶請けにはしょうゆ煎餅を選ぶ。
これはもう絶対で、私の師匠方もまるで小判のように煎餅を大切にしていた。
私もその影響をすごく受けていて、お茶請けといえばしょうゆ煎餅なのだ。
しょうゆ煎餅と言ってもそこいらの煎餅ではない。
伝統あるお店で手焼きした立派なモノでなければ。
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その筆頭は、人形町『草加屋』の手焼き煎餅。
これがピッタリとお茶に合う。
何しろ三代目・桂三木助がその焼き加減、しょうゆの味付け具合に惚れ込んでいた。
私が前座の頃、師匠が金庫にしまった煎餅を一枚ずつ出して食べているところを発見したら、「他の奴には言うなよ!」と一枚もらったくらい。
八代目・林家正蔵師匠が常連だったのは、今はなき浅草『ふな屋』の黒缶入り煎餅。
お歳暮に、お世話になっていた作家の長谷川伸先生※1や村上元三先生※2の家を自身で訪れ、礼を尽くしていた。

※1:大衆文芸作家で“股旅物”の開発者として知られる。
※2:長谷川伸に師事し、戦後の大衆文学復興の旗手となる。

目白の五代目・柳家小さん師匠は、地元の『味の店』のしょうゆ煎餅がご贔屓。
パリッと割って口に頬張れば、素晴らしいしょうゆの香りと下町の味付け、生地の旨味。
まさに絶品だ!
もう一軒、私のお気に入りを紹介しよう。
浅草園芸ホールに出演する時、いつも土産に買うのが『日乃出煎餅』※3の「天日干し手焼きせんべい」。
天日干しした生地を、職人が一枚一枚しょうゆに二度漬けして焼いたものであり、とにかく堅い。
バリバリと齧ると香ばしいしょうゆとお米の味わいが広がり、これ以上ないお茶の相方!
この店ではサービスで、久助と呼ばれる“割れせん”を付けてくれるのも嬉しい。

アァ、かくも深き噺家たちの煎餅愛よ!

※3:残念ながら2022年1月に閉店。
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林家木久扇(はやしや・きくおう)
1937年生まれの落語家、漫画家、画家、YouTuber。
漫画家を経て1960年に落語界入り。
1969年には日本テレビ「笑点」のレギュラーメンバー入り。
1973年に真打ちに昇進し、
2007年には落語界史上初の親子W襲名により「林家木久扇」となる。
時代に呼応した新鮮な話芸をもち、アート、ラーメン、絵画、歌、役者、エッセイなど、下町の粋を伝えるマルチな落語家としてお茶の間に人気。
2020年には念願のYouTuberデビュー。
HIKAKINに師事してKIKUKIN名義でチャンネルを開設。
そして同年8月には芸能生活60周年を迎えた。
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