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私が好きな甘いお茶請けは、日本橋人形町にある重盛永信堂の人形焼きだ。
薄く香ばしいカステラ生地の中に、上品なあんこがたっぷり入っている。
テレビのドラマにも登場したことがあるそうで、ご存じの方も多いのではないだろうか。
近くの明治座に芝居を観に行った折り、必ずおみやげにしてお茶と楽しむ。
おみやげにしてと言うが、先々代の社長※は私の姿を見るといつもプレゼントしてくれた。
私は隣町の日本橋久松町の出身だから、同じ人形町の先輩として可愛がってくださっていたわけだ。
※二代目の重盛好久氏
先代の五代目・三遊亭圓楽さんは変わっていた。
初日に御宅へ弟子たちがあいさつに来ると、全員を集めて叱言が始まる。
一同正座して頭を垂れているが、円楽さんは虎屋の羊羹をかじりながらの説教だ。
冷めたお茶を飲みながら、羊羹一本をなんと竹皮をバナナの皮のようにむいて右手に握り、
口に運んでは小言である。
弟子はおかしくてしょうがないが、圓楽さんは真面目に怒っているのでとても笑えない。
桂歌丸さんは仕事で地方へご一緒すると、よく空港でソフトクリームを買っていた。
愛煙家だった歌丸さんが、嬉しそうにクリームを舐めて一息つく姿は
なんだか不思議に可愛らしかった。
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師匠の先代、八代目・林家正蔵は甘い物が好きで、私が前座の頃は
よくお使いを頼まれて銀座へ出かけた。
師匠のお気に入りの和菓子は、萬年堂の御目出糖(おめでとう)。
なんともおめでたい名前だが、江戸時代に御所所司代への献上にもなっていた
高麗餅という京菓子が元になっている。
萬年堂は京都の和菓子屋だったが、明治時代の遷都とともに東京へ移転した。
そして明治中頃に、高麗餅を赤飯のような見た目から「御目出糖」と改名。
以来100年以上御祝儀菓子として親しまれている銘菓なのだ。
小豆餡や米粉、餅粉を混ぜて作った表面は薄紫色のそぼろ状で、
大粒の大納言小豆の蜜漬けが散らしてある。
ほの甘くもっちりとした食感で、お茶と一緒に食べるとたまらない!
あと浅草の雷門にあった評判堂※の雷おこしも林家の好物で、
よくおかみさんが「お食べよ」と前座の私にも分けてくれたっけ。
※残念ながら2020年に閉店。
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林家木久扇(はやしや・きくおう)
1937年生まれの落語家、漫画家、画家、YouTuber。
漫画家を経て1960年に落語界入り。
1969年には日本テレビ「笑点」のレギュラーメンバー入り。
1973年に真打ちに昇進し、
2007年には落語界史上初の親子W襲名により「林家木久扇」となる。
時代に呼応した新鮮な話芸をもち、アート、ラーメン、絵画、歌、役者、エッセイなど、下町の粋を伝えるマルチな落語家としてお茶の間に人気。
2020年には念願のYouTuberデビュー。
HIKAKINに師事してKIKUKIN名義でチャンネルを開設。
そして同年8月には芸能生活60周年を迎えた。

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